9回裏最後のバッターの最後の一球を、客席に向かって投げてそのままマウンドからピッチャーが消えてくようなブログ

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『動機』 横山秀夫:感想

世界は事情に満ちあふれている。

 

「事情」という言葉は大辞泉によると”物事がある状態に至るまでの理由や状態。また、その結果。事の次第。”とあって、つまりはなぜそうなったかといった因果。それはもちろん人だけに限らず気候による食料事情といった言葉のように、人以外にも適用されるけれども、こと人の場合には、ある状態に至るにはそこに携わる人の心理や都合が影響してくる。

 

横山秀夫という作家は事情の作家だ。『半落ち』『震度0』『64』とかは有名で読んだ人も結構いるかと思われるけれども、警察やそれをとりまく記者、法廷を描く中でその心情やそれぞれの事情を書くのがめちゃんこおもしろい。

 

その中で今回読んだ『動機』は短編集であって、表題となっている『動機』に加えて『逆転の夏』『ネタ元』『密室の人』の計4編から成っている。

 

動機 (文春文庫)

動機 (文春文庫)

 

 

たとえばミステリーというのはいろんな形があるけれども、事情そのものがミステリーになるのであって、もう全てが事情で満ち溢れている。その中であるいは人がぶつかり心情に昇華して、話があっちにいって事情が積み重なり、話がこっちに来て心情が重なり、それがその存在は知っているけれどもその中をよくわからない組織、ここでは警察や記者や法廷や、それぞれの事情が混ざり合って1つの事情に落ちるというのが本作。

 

ここで「動機」という言葉の意味を振り返ると"人が意志を決めたり、行動を起こしたりする直接の原因。"とあって、原因、つまりは事情に他ならない。

 

事情を描く作家がかくも直接ストレートにタイトルをつけたのが『動機』であって、あるいは他タイトルも全て『動機』にしてもよいぐらいだ。その中であてがわれた本作『動機』は動機 of 動機 であって、一読をおすすめしたい。本エントリが読む事情になれば一幸。