『乱反射』貫井徳郎 感想:読んだ本
様々な要素が絡み合ってストーリーが螺旋状に進んで一点に帰着するといった話はミステリーではしばしばある話だけれども、その絡み合う要素というのは謎めいた要素であって、この謎がどのようにつながっていくのかドキドキしながら読み進めて、最後の最後、終点に至ったところでそれらが全てクリアになる爽快感はこの上ない。
このパターンは主人公が主体のまま進む場合もあれば、あるいは登場人物が多数登場し、登場人物によってパートが変わる、つまりはそのパートの主格が登場人物の一人で、あらゆる人の側面からストーリーが進んでいく、登場人物は途中あるいは終盤で絡み合って接点ができつつ、全体としてストーリーが落ちて最後に帰着する。
ほーん、っつって。こういうパターンの場合だいたい良くできてるなっつってほ〜ん、となるわけであるんだけれども。
ということで貫井徳郎の『乱反射』という本を読んだのであって、
背表紙が、
地方都市に住む用事が、ある事故に巻き込まれる。原因の真相を追う新聞記者の父親が突き止めたのは、誰にでも心当たりのある、小さな罪の連鎖だった。決して法では裁けない「殺人」に、のこされた家族は沈黙するしかないのか?第63回日本推理作家協会賞受賞作
ってかんじ。
事故が起こる章を0章として、-44章からスタートする本作。
背表紙の文章をピックアップすると、-44から始まって、
小さな罪の連鎖 ・・・-44章〜-1章
ある事故に巻き込まれる・・・ 0章
原因の真相を追う ・・・1章〜
であって、まぁちょっとしたことが重なって事故が起きるんだけどもちろん遺族としては原因が知りたいのでどんどん原因にあたっていくとそこに見えるものがあって、といった全体像。
バタフライエフェクトというと知られた言葉だろうし映画は最高であって、ちょっとしたことがどうつながっていくというものだけれども、その細分化版、様々版といったかんじ。
ちょっとしたことというのは我々が日常を過ごす際に"誰にでも心当たりのある"小さな罪の連鎖ってかんじで書いてるんだけど、ここがはっきりいうと罠であって、つまりはいくつも罪が重なるんだけれども、もちろん心当たりがあるものも無いものも出てくる。とはいえ全体として心当たりがあるものとして消化されるのであって、当たり前、そういうことはよくあるという刷り込みがなされている。
何よりもすごいのは行為というよりも、登場人物が総じてクズ揃いであって。文庫で600ページ近くあるんだけど登場人物がいかにクズかが延々と書かれているのであって、それを「人なら誰にでも心当たりがある」的なかんじの設定なのでもやっとしつつ、それなら全員クズだな!がはは!ってかんじで一笑に付す。
クズが登場する小説というと二種あって、それは理不尽な思いをさせられるものと、クズが愛らしく描写されるものであって、後者であればたとえば町田康の文庫『夫婦茶碗』に収録されている『人間の屑』という小説は最高におもしろいんだけれども、本作は前者のクズ本であって、あんますっきりしないのでクズをモチーフにするなら楽しいクズ話のほうが良さがある。
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