ミステリー飛行機
空港にいるというのはつまりはこれからどこかに行くか、帰ってきたところか、もしくは誰かを待っているかのどれかだろう。
夏休みの羽田空港。
到着口ではそれぞれ家族や恋人や友人を待つ。それはあるいは「ようこそ」といった旅の始まりかもしれないし、あるいは「おかえり」といった旅の終わりかもしれない。
カフェでビールを飲みながら搭乗時間を待つ。
たとえばこれからどこかに行く場合であればもちろんチケットは取っているだろう。あらかじめ目的地を定めてチケットを買い、その飛行機に搭乗する。国内であれば長くても数時間で目的地だ。
ミステリーツアーを企画している旅行会社がある。
日程表を見ても「とある駅」「とあるホテル」となりがちだ。
参加したことは無いけれども、どこか知らないところに行きたい、どこに行くのかわからないというものに乗っかりたいというのはわかる部分もある。
あらかじめ計画的にあそこに行ってここにも行って、という計画をすべて排除し、行き当たりばったりでその土地を楽しむこともできるだろう。
そういったミステリーツアーにはバスや電車のほかに飛行機を利用するものもある。
バスや電車であれば道中、向かっている方向はわかるけれどもどこで降りるか、どこで止まるかは謎であり、その目的地に至るまで謎が維持するけれども、飛行機では難しそうだ。たとえば目的地が熊本だったとして佐賀空港で降りてそこからバスをチャーター、熊本へトコトコとバスで向かうのはまるで非効率であり乗客の負担にもになりあまりにもミステリーだ。目的地が熊本周辺であれば熊本空港で降りるだろう。
つまりは空港時点で熊本行きに乗るというのは明らかになり、あ、これから熊本行くんだなというネタバレが旅の始まりで明確になってしまうだろう。
ミステリー飛行機。どこで降りるかわからない飛行機。
国内に空港は100個近くある。そういった飛行機があればどこか遠くに短時間で行くことができる。
何番搭乗口、ANAなんとか便、行き先は100個近い国内空港のどこか、パイロットの気まぐれ空港まで。
佐渡ヶ島に飛ばされるかもしれない、喜界島に飛ばされるかもしれない。
もし佐渡ヶ島で降ろされたらトキを見よう。喜界島に飛んだらきれいな海に行こう。
もしかするとパイロットがめんどくさくなって成田で降ろされるかもしれない。
もし成田で降ろされたらどうしよう。その時はいそいそと新宿に帰ってヒマな人でも誘ってお酒を飲もう。
搭乗時間が近づく。
行き先は100個ある空港のどこか。
残念ながら行き先は決まっている。
ビールを飲みきって席を立つ。