カフェモカ
何かが初めて自分の辞書に刻まれるとき、つまりは初めて知ったときや触れたときというのはしばしば感動を伴うことがある。
それはたとえば初めてハラダのラスクを食べたときや、初めて満月ポンを食べたとき、初めて東京に行ったとき、初めてデートをしたときや初めておっぱいを触った時なんかもそうだろう。
その中でも特に感動したのは「カフェモカ」という単語がおれの辞書に刻まれたときだ。 たしかそれはおれが大学1年のころ。もう15年近く前だ。 大学には食堂があったけれども新しくカフェスペースが新設された。 そこでは飲み物やパンが提供され、学生達はそこで食べたり飲んだりおしゃべりしたり勉強したりするようになった。
おれが初めて行った時かは憶えてないけれども、いつかメニューに見慣れない横文字があった。カフェモカだ。 カフェといのはコーヒーだろう。カフェオレとかカフェラテとか。それぐらいならおれは知っている。 モカとは。モカもなんかコーヒーの何かじゃなかったっけ的な。 つまりはカフェモカとはブルーマウンテンとかキリマンジャロとかそう類のひとつだろうと踏んだところ、決してそういうものではなくチョコレートを混ぜた甘いコーヒーとのこと。
コーヒーにチョコレートが混ざっているというの革新だ。ブレイクスルーだ。あわないはずがない。とはいえココアやホットチョコレートともまた違うだろう。 当然のようにオーダーする。カフェスペースとはいえ店員は若い人や学生ではなく食堂のおばちゃんだ。初めて飲むカフェモカはチョコレートが香り、砂糖を入れたコーヒーとはまた違う甘さで、世界にこんなおいしい飲み物があってよいのかと完全に虜になった。
大学時代はバイトに明け暮れた。1年生のときは時給750円の居酒屋で夜な夜な働き、その対価はスロットとカフェモカにぶち込んだ。 飲む・打つを繰り返した。 買うことはせずにちょうどその頃、初めてのカフェモカを飲んだのと時を同じくして人生で初めて付き合った彼女ができて初めておっぱいを触った。おれはおっぱいを知った。
そこから15年も経つとまぁいろんなことがあるわけで、初めてのときには感動したようなものもだんだんと色褪せていく。 33歳になりこれまでに体験した初めて出会ったものよりも、これから体験する初めて出会うもののほうが少ないのではないだろうか。
否。
決してそんなことはないだろう。今までよりもむしろこれからのほうが知らないものばかりだろう。 ほとんど行ったことがない国しかないし、国内も行ったことが無いところばかりだ。ましてや東京でも知らない場所はたくさんある。 今年は初めてのことを知ろう。その中には感動を伴うこともたくさんあるだろう。
今こうして渋谷のベローチェでカフェモカを飲みながら、大学生のころを思い出しておれ、一回アナルセックスしてみたいなぁと思うのである。