9回裏最後のバッターの最後の一球を、客席に向かって投げてそのままマウンドからピッチャーが消えてくようなブログ

平日は1000〜2000文字ぐらい、土日は4000文字ぐらい書きますがどちらも端的に言うと20文字くらいに収まるブログです。

『ダック・コール』 稲見一良:感想

たとえば次に読む本を選ぶ際に何を持って選ぶかというのは人それぞれで、誰もがおもしろいものを読みたいと思うのは当然である。いざ読んでクソみたいな小説を引き当てた際にはその徒労感はハンパないなっつって、以前読んだ作家の文章がおもしろかったのでリピート、つまりはその作家の別の作を選んでみたり、あるいはその小説のあとがき後の解説文を寄稿している作家さんの本を読んでみたり、ジャンルや作風が関連する作家を知りその本を手に取ったり。これは1つの作品からつながるリレーであり、同じ作家だから、同じジャンルだから、と心理ハードルが少なく幅を広げることに適している。

 

あるいはいざ本屋さんや図書館に出向いて棚を見る。タイトルが書かれた背表紙がずらっと並ぶ。その中で、おや?と思った本を引き抜き、帯や裏表紙のあらすじを見ておもしろそうだとか興味を持って選んだり、あるいはこれはちげーなっつってまた棚に戻したり。これは賭けの側面もあるけれども、新しいジャンルや読んだことが無い作風に出会えたりするのでまた趣がある。

 

あるいは本の虫である知人におすすめされたものを買ってみたり、あるいは愚直な君は「おもしろい小説」とGoogleで検索して「おもしろい小説まとめ100選」みたいなまとめサイトがヒット、その一覧、タイトルとあらすじを見て買うものを決めたり。

 

他には文学賞というものがある。芥川賞山本周五郎賞といった新人賞であったり、直木賞谷崎潤一郎賞野間文芸賞といった純文の賞や、ジャンル別に日本推理作家協会賞といったミステリーに限られた賞がある。こういった文学賞の受賞作品については、「賞を取るぐらいおもしろいのだろう」というお墨付きが与えられたようなものなので手に取りやすいかもしれない。純文はそれでも癖がすごく水に合わないものも多々あるけれども。

 

ミステリーが好きなおれの場合はミステリーの賞に加えて宝島社選考の「このミステリーがすごい!」やなんかを参考にしたりするけれども、ここでまた出て来るのは、そういった選出されたものを跨いだものである。

 

稲見一良の短編集『ダック・コール』は「1992年 このミステリーがすごい!」の3位であり、かつ、ベスト・オブ・ベストの6位。さらには山本周五郎賞を受賞した作品。

 

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)

 

 

6編の短編をプロローグとエピローグで、結ぶ時間も国も場所も異なるけれども、共通するのはどの短編にも野生の鳥が活き活きと、あるいは狩猟がキーワードとして描写され、その編の主人公との関係を持つ話しとなる。短編はそれぞれで完結していて、サラリーマンの話しだったりリタイアしたおじいさんの話しだったり、外国の話しであったり、その内容もあるいは冒険譚だったり、ハードボイルドな捕物であったり。先述のように共通項はあるけれども、それぞれで独立しているので、区切りもあって読み進めるのにも良さがある。二話と六話はそれぞれ『ミステリマガジン』『奇想天外』に掲出されたものであり、その他は書き下ろし。

 

わからんけど、順番として二話、六話があって、その他4話をつくってプロローグとエピローグを書いたのかしら。もしそうならそれいる?みたいなかんじにもなっちゃいそうなアレでアレ。

 

で、読後感の最初の所感は果たしてミステリーとは、というところであり、先述のように「1992年 このミステリーがすごい!」の3位であり、かつ、ベスト・オブ・ベストの6位である。で、読み通した後に、あれ、どれがミステリーだ、みたいな気持ちになったというところがある。「不思議な物語」をミステリーと捉えるのであればまぁあるいはってところだけれども、ファンタジーとミステリーの間で揺れそうになる。ともあれそれぞれ短編の、人、自然の描写は鮮明で印象が強い。読んでないけれどもレイ・ブラッドベリの『刺青の男』がモチーフになっているとのことで、あるいはこの作品が気になったのなら、1つの作品からつながるリレーで、次はこの『入れ墨の男』を読むのかもしれない。

 

 

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)

 

 

刺青の男

刺青の男