ビョークのVR展「Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験」に行ってきた話
ビョークのVR展が話題だ。
VR展に際して行われたインタビュー記事はPR記事ながら6000近い「いいね」や500以上のはてブがついていて10万PVは軽く越えているだろう。
つまりはビョークのVR展に行ってきた。
ネタバレはよそうと思うのだけれども公式サイトで展示物は盛大にネタバレしているので、実際に見てきてどうだったかを綴るしかないだろう。
先ほど見てきて今のこの感情は非常に難しい。
本当なら
といったかんじにそれぞれ見出しと写真、本文で詳しくレポートしようとも思っていたのだけれども、さらにはこの展示はお台場の日本科学未来館でやっていて、そこまでに至る道程、東京テレポートから日本科学未来館まで、公園の中を通り途中でガンダムが見えて来てうふふ、とか、20時の回だったので常設展はもう終わっていて裏口から入ってエレベータを上がって、とか、小さい部屋に回転椅子が何脚もあって、とか、VR中ちらっとヘッドセットを外したら全員こっち向いててうふふ、とか書こうとも思ったのだけれども、そういったものはこの際すべて取りやめよう。
ここからはネタバレではなくおれの所感だ。これから見る人は必ずしもおれと同じような思いにもならないだろう。展示しているのは先述の通り、公式サイトに掲載されている通りだ。行こうと思っている人はそれらを実際に見て聞いて体感した一人の感想として聞き流して、実際に行って見て聞いて体感していただきたい。そして既に見終えた人は果たしておれと同じような感情を抱いたのがどれぐらいいるのかはまた知りたいところだ。
今終わった感情を率直に言うと、ビョークでさえまだこの程度にしか昇華できないのか、ということだ。
ここでやはりVRに触れないといけないだろう。VRとは以前書いたアダルトVRの話と同じだ。
VRとはバーチャルリアリティ(Virtual Reality)の略で、ヘッドセットを被って目の前の空間を塞ぎスクリーンだけが見える状態、正面だけではなく顔の動きに併せて360°回転し、まるで自分がその世界にいるかのような体験ができるという代物だ。
つまり今回は本来の「音楽を聴く」という体験を、平面のミュージックビデオではなくVRを利用した新たな空間での視聴体験として昇華する試みだ。音楽と接する新たな体験としてのチャレンジだ。
あるいはおれはビョークに、ビョークだからこそ期待しすぎたのかもしれない。かつてホモジェニックやメダラをレンタルCD屋さんで借りて「All Is Full of Love」をひたすら聴きそのPVに魅せられシュガーキューブスも聴いてダンサー・イン・ザ・ダークで鬱々とした気分にさせられたビョークに期待しすぎたのかもしれない。注目度が高い分、VRという技術が発展途上な分、ビョークのアートに、チャレンジに、ビョークの世界に、ビョークのVRに期待しすぎたのかもしれない。
音楽におけるVRとは360°のミュージックビデオなのか。
360°で撮影された映像コンテンツなのか。
360°でつくられたCG映像コンテンツなのか。
VRとはそういうものなのか。いや、そうなのだろう。間違いなくVRでのミュージックビデオは流行るだろう。ハードウェアでどこが勝ち抜くのかという話になるだろう。それはPlayStation VRかもしれないし、オキュラスリフト かもしれなしい、もしくはスマートフォンがそのハードとなってスマホを設置することができるヘッドセット が主流になるかもしれない。そうなるとどのアプリが勝つのかって話になるかもしれないし、アプリ単体の開発合戦になるかもしれない。どれかハードが勝ち抜いて、そこからソフトが展開されるかになるだろう。
そしてたとえばあるVRのハードウェアが勝った後で、360°MVはコンテンツとして広がるだろう。なんならそのMVがプロモーション用のビデオではなくそれがそのまま売り物になってしかるべきだろう。それは単体のMVかもしれないし、ライブを体感できるものかもしれない。
たとえばおれが30人からなるアイドルのグループに熱をあげていて、そのMVが360°展開されているならばその推しメンを360°の中から探すためにぐるぐる回転するだけでも楽しいだろうし、シーンが切り替わるたびに探すだろうし、他のメンバーにだけ注目して一周するかもしれないし、その楽しさは想像に容易い。今までの平面でのMVとは異なり360°のMVであれば音楽の楽しみ方がたくさんできるだろう。
ただ現状、ビョークでさえも360°のMVに甘んじてしまうのか。
VRの展示は公式サイトにもあるように
- Stonemilker VR
- Mouthmantra VR
- Not Get VR
の3つだ。
端的に言うと最後のNot Get VR以外は世界を、おれを包みこむようなものではなかった。360°の映像と音楽に留まっていた。最後のNot Get VRの色彩は、あるいはおれを包み込むものとして、おれを包み込む世界として、音楽が世界を伴いおれを包み込む可能性が見えたという程度だ。
ここまで来てやっと、もやもやしていたキーワードを見いだせたように思う。「包み込む」だ。今回の展示で言うのであればまだ包み込む段階まで来ていなかったと思う。純粋に360°、上下左右の映像コンテンツで、その中におれは入っていなかった。
音楽が視覚を伴う世界としてVRが必要となるだろう。おれは音楽がどれだけおれを包み込んでくれるかに期待しすぎていたのかもしれない。
VRはまだまだこれからということなのだろう。そうすると希望が見いだせる。もっとおれを包み込んでくれ。期待を込めて。