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9回裏最後のバッターの最後の一球を、客席に向かって投げてそのままマウンドからピッチャーが消えてくようなブログ

平日は1000〜2000文字ぐらい、土日は4000文字ぐらい書きますがどちらも端的に言うと20文字くらいに収まるブログです。

『百年法』山田宗樹 感想:読んだ本

長い小説というのはどれぐらいのボリュームからだろう。

たとえば文庫で上下巻が分かれているものもあれば、1〜5ぐらいまで分かれているものもあれば、あるいは町田康の『告白』だったり京極夏彦の『魍魎の匣』のような、一冊で850ページだったり1000ページもある分厚い文庫から長いという人もいるかもしれないし、一般的な2〜300ページぐらいの文庫でも長いという人もいるかもしれない。

 

ということで今回読んだ山田宗樹の『百年法』も文庫で上下巻に分かれていてまぁ長いんだけれども、長い小説というのも二つある。ひとつはひとりの主人公視点でずっと話が進んでいくもの。もうひとつはいろんな登場人物が表れてその場面が章ごとに切り替わる形。

 

百年法 (上) (角川文庫)

百年法 (上) (角川文庫)

 

 

百年法 (下) (角川文庫)

百年法 (下) (角川文庫)

 

 

『百年法』は後者であり、その登場人物は重複するのも含めて上巻で31名、下巻で22名。章ごとに場面が切り替わるというのは、つまりは登場人物は章ごとにグループにばらけており、いくつかのグループが切り替わりながらストーリーが進んでいって、最終的にそのグループが交わり、螺旋状に進んでいくストーリーがひとつの形に収束する。

 

この手法だけでお見事であって、つまりは本作は最後の最後、最後の1行、最後の段落、最後の章で全てが完結する。それはあるいは『イニシエーション・ラブ』みたいなちっぽけなものではなくて、最後に世界が突き抜けるものであって、激おもしろかった。

 

本作は設定からぶっとんでいるSFであって、上巻では西暦2048年、下巻では2098年の日本。不老化処置(HAVI:Human Ageless Virus Inoculation)が開発され、人は見た目をそのままにいつまでも生きていられる状態になる。とはいえ、その処置をすると100年を期限として安楽死処置(そのための施設がある)を受けないといけない、といった『百年法』がまかり通っている世界だ。

 

【生存制限法】

不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て生存権をはじめてとする基本低人権はこれを全て放棄しなければならない

 

人々は当然のようにHAVIを受けるんだけど、HAVIに実施から初めて100年を迎えるとき、つまりは最初に安楽死処置がなされるときに、日本はどうなるのかというのが前半、その後の日本が後半、そして結末へつながるというところで、ここで文庫版背表紙を引用すると、

 

上巻

不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て死ななければならない─────国力増大を目的とした「百年法」が成立した日本に、最初の百年目が訪れようとしていた。処置を施され、外見は若いままの母親は「強制の死」前夜、最愛の息子との別れを惜しみ、官僚は葛藤を旨に責務をこなし、政治家は思惑のために暗躍し、テロリストは力で理想の世界を目指す……。来るべき時代と翻弄される人間を描く、衝撃のエンターテインメント!

 

下巻

不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て死ななければならない─────円滑な世代交代を目論んだ「百年法」を拒否する者が続出。「死の強制」から逃れる者や、不老化処置をあえて受けず、人間らしく人生を全うする人々は、独自のコミュニティを形成して活路を見いだす。しかし、それを焼き払うかのように、政府の追ってが非常に迫る……世間が救世主を求める中、少しずつ歪みだす世界に、国民が下した日本の未来は!?驚愕の結末!

 

といったところで、グループが官僚や政治家、普通の家庭、コミュニティに分かれるんだけど、それが結末で収束して、そこから未来につながる、というもの。下巻背表紙最後に書いてあるけれども、舞台あがもともと未来の日本であって、そこからさらに日本の未来を問うという凄まじさがある。

 

本作のポイントとして国民投票が行われるってところがあるんだけど、最近ではたとえばヨーロッパではブレグジット、イギリスがEUを抜けるかどうかといった国民投票が行われたり、あるいはアメリカではトランプかヒラリーか、あれは厳密には二択じゃないけどまぁ二択で国民投票みたいなもの、あるいは国内では大阪都構想ぐらいか。

 

国民が二者択一で選択するってのはそもそもあんまり賛成しないんだけど、というのはなぜかというと、選挙とか投票ってのは、いくつかの未来を選択するということであって、その未来が何年後を指すのかがそれぞれで違うから論点がずれてしまう。あるいは5年後の自分の生活を見る人もあれば、30年後、自分たちの子供の世代を考えて投票をするのもいれば、その投票によって見ている未来が異なるのでずれちゃうわけで。

 

たとえば自分の生活を見る人もいれば、こどもや将来国があるべき姿をどれだけ想像するかの違いもあって、っていうのは常々考えていたんだけど、本作『百年法』もその視点が強烈に入っていてオモローだった。

 

豊かさとは何か。未来に関する創作の中でその創作内の未来を見出して、それを今、自分の生活の中に取り入れて、一度未来について考えるには良い小説。今の豊かさと未来の豊かさと。っつって。

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