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『図書館戦争』 有川浩:感想

小説というもの自体がフィクションであって、言い方を変えると空想なのだけれども、では「空想小説」で検索するとSF、サイエンスフィクションつまりは空想科学小説がヒットする。

 

 

ここでぼんやりするのは空想、ファンタジー、SFの分け方であって、wikiによると

空想とはファンタジーと同義であって、その中で

実在しない物、事柄に対して「空想上の産物」「空想上の生物」などと用いられる。物語の多くは空想を出発点としている。サイエンス・フィクションは科学的空想を元にした空想物語であり、ファンタジーは神話や伝説、神秘思想を元にし、またホラーは心霊を題材とした空想物語とも言える。

とある。つまりは空想という大きなくくりの中で科学的空想を伴うものをSF、神話といったものをファンタジーと分けている。

 

空想というのは「その時点では実現されていないことに対し、頭の中で実現している場面を想像すること。」であって、ここに妙があるのは前文の「その時点では実現されていない」という部分。

 

その時点では実現されていないものには二つある。ひとつはまったくの無形、もともとがイメージ上のものである神話や宇宙の話。もうひとつは今すでにあるものを実現していない方向に飛躍させるというものだ。

 

図書館戦争』は今すでにあるものを、実現していない方向に振り切った小説であって、マンガ化やアニメ化もされている。その舞台は2019年の日本でもう再来年だなっつって。その日本では公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を規制するという「メディア良化法」という法律がが制定されて、つまりは本や映像の表現が規制されている。メディア良化委員会ができ、不適切とされた創作物は検閲を受けるという社会。

 

 

  

 

その弾圧に対抗するのが図書館であって、図書館法に則る公共図書館は「図書館の自由法」を制定し、武力もいとわない検閲に対して本の自由を守るべく良化委員会と抗争を行う。

 

今すでに存在している図書館を飛躍させた空想だ。

 

検閲といっても武力や襲撃によるものであって、図書館側もその武力に対抗するよう、防衛のために図書隊を結成。銃なども配備された戦争のような実戦が繰り広げられる世界。

 

そこに入隊し、特殊部隊に配属された女の子が主人公であって、部隊での出来事や同僚、上司とのできごと、対するメディア良化委員会との抗争がそのストーリーとなる。

 

ここで素敵なのがその副題であって、実際に日本図書館協会が発表してる「図書館の自由に関する宣言」が元になっている。

 

 

図書館の自由に関する宣言

第1 図書館は資料収集の自由を有する
第2 図書館は資料提供の自由を有する
第3 図書館は利用者の秘密を守る
第4 図書館はすべての検閲に反対する

 

これに対して図書館戦争の副題は

一、 図書館は資料収集の自由を有する。
二、 図書館は資料提供の自由を有する。
三、 図書館は利用者の秘密を守る。
四、 図書館はすべての不当な検閲に反対する。
図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。

 

の五編から成る。つまりは図書館の自由に関する宣言の各条項をストーリーの軸としていて、たとえば一章では資料収集部分で図書館内でのストーリーができあがって、二章では資料提供部分でのストーリー。現実と空想とその解釈をぼんやりさせるグラデーションとなってオモロー。こういった自由に関する宣言ってのをあるのも知って勉強になる。

 

空想には現実とのグラデーション部分があるとそのおもしろさがよりリアルになるのはよく知られるところであって、身近なところにある図書館がその舞台となり、そこでドンパチ戦争が行われるというのも最the高のエンターテイメント。シリーズ化しているので続く小説も読みたい。久しく行ってない図書館に行こう。